睡眠学     【 indexへ】

国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部、三島和夫部長

眠らなくなった日本人 2013/1/7

厚労省保健福祉動向調査などによると、日本人の5人に1人が睡眠に問題を抱えているという。

1941年に行われた戦時下国民生活時間調査と、1960年以降に5年おきに実施されている国民生活時間調査のデータを組合わせたもの。

「このグラフは、ある時間に何%の人が眠っていたか示しています。1941年の時点だと10時50分には、日本人の90%が眠っていたんです。これが約30年後の70年には、1時間ちょっと遅くなりました。ただ、起きる時間もまだ後ろにずれることができていたんです。会社に間に合う時間までまだ余裕があった。でも、それ以降そのぎりぎりのラインを越えてしまい、結局どんどん睡眠時間が短くなってしまっています。週休2日制の企業が増えて、2005年に土曜日の平均値がちょっと上がりましたけど、平日についていえば、もうずっと下がりっぱなしですよね。今の時点で、40代、50代の働き盛りの年代層の睡眠時間は7時間そこそこです。週末に1時間ほど長く眠って、なんとか帳尻を合わせているわけです」

世の半分の人が「7時間そこそこ」以下の睡眠で済ませていることになる。7時間眠ればいいという人もいると思うが、通勤電車の中でうとうとしている人、どんよりしている人の多さを考え合わせれば、「睡眠不足」は厳然たる事実だろう。

さらに、こんな傾向も読み取れるそうだ。

「男女別にみると女性の方が睡眠時間が短いんです(平成18年社会生活基本調査)。男性も先進国の中では短いんですが、女性は飛び抜けている。それと、今、2001年に生まれた子ども達を追跡する調査(21世紀出生児縦断調査)が行われていますが、すごく遅くまで起きている子がいて驚かされます」

 後者の子どもの就寝時間について、三島さんがしめしてくれた「21世紀出生児縦断調査」のデータは第4回、つまり2004年のもので、つまり、調査対象児は当時だいたい3歳になっていた。そして、母親のある特徴に照らして子どもの就寝時間を見ると、その特徴に応じて、夜10時以降に寝る子が多くなっていくのだ。

何が一番影響しているかというと、働いてるお母さんなんですよ。要するに、帰ってくる時間が遅くて、ご飯も遅くて、入浴も遅い。だけど、それを指摘するだけだったら何の救いもなくて、これからも女性は社会で働いていくのに、日本の場合、サポーターがいない。日本人って、真面目すぎるっていうか、子どもをベビーシッターとか誰かに任せると母親失格みたいなとらえ方をしますよね」


体内時計25時間はウソだった! 2013/1/8

「この100年、200年で、人の睡眠の本質的な機能に変化があったわけではありません。今も昔も、国が違っても、人が必要としている睡眠時間などはあまり変わらないんですよ。いろいろな国で統計が取られていまして、実際に眠っている時間は先進国だと、平均値で7時間40分から50分くらいですね。短い人は3時間前後、長い人は11時間以上というふうに正規分布をしてるんです。自分が眠っている時間で充分という場合はいいんですが、問題なのは、現代社会のライフスタイルに睡眠を適応させることが難しい方が多いという点です」

「実は、ある人に眠りやすい時間というのはかなり固定されているんです。非常に宵っ張り型の人から早寝早起き型の人まで、ほぼ遺伝的に決定されてるものなんですよ。体内時計に関係することでその体内時計自体、遺伝子によってかなりきちんと制御されていると分かっているんです。横綱、関脇級に大きな影響がある遺伝子が10と幾つか特定できていまして。ほら、私達の中で体内時計はよく25時間とかいわれてますでしょう。でも、あれは嘘なんですよ」

「体内時計の1日の周期の平均は、実は24時間11分で、24時間にかなり近いんです。ただ、これも平均より長い人も短い人もいて、やはり正規分布しています。ですので、とりわけ24時間に近い体内時計を持ってる人は、毎日苦労しなくてもおなじ時間に眠たくなって、目覚ましなしでも起きられるわけです。でも、体内時計が長い人は、ちょっと気を抜くとどんどん夜更かしのほうにずれていってしまう。だから、もともと苦労しないでも寝起きができる人と、なんとかカツカツで体内時計の調整してる人がいるんですよ。逆に体内時計の周期が短すぎてひどく早寝早起きになってしまって、社会生活上困るという遺伝病もあります」

いずれにしても、ほとんどの人が体内時計の周期が多かれ少なかれずれているのだから、それを24時間のリズムにシンクロさせる必要がある。 鍵となるのは、「光」だ。

24時間ぴったりではないことが多い体内時計の周期は、朝昼晩の明暗の違いに反応して1日の周期にシンクロするようになるのだという。

より詳しく述べておくと、すべての細胞に、体内時計を駆動する遺伝子(時計遺伝子)のセットは備わっているのだが、外部からの刺激がなくても永続的、自律的にその周期をリズミカルに発現するのは脳の視交叉上核という部分だけなのだそうだ。そのほかのすべての細胞は、親時計(マスタークロック)である視交叉上核からの時刻シグナルがないと時を刻まない。ただ、この親時計にしても、周期は24時間から外れているので、外界の明暗サイクルに反応し、なんとか周期を合わせる、ということらしい。ちなみに、海外旅行した時などの時差ぼけは、親時計である視交叉上核が現地時間にすぐ同調するのに、ほかの細胞が親時計に追いつくまでの時間がばらばらなために起こる現象なのだとか。
 なにはともあれ、朝、光を浴びるのは大事
ということは、天気は晴れている方がいい。

光で体内時計を調節するときに、朝は太陽の光がガーンとくるので、少し反応が鈍くできてるんですね。ところが夜の光っていうのは、ほとんど自然界ではあり得ないから、ものすごく効果が強いんですよ」

「日中の光は圧倒的なんですが、夜でいいますと体内時計に強く働きかけてくるのは1000ルクス以上だと言われます。例えばコンビニの中はそれぐらいあります。特に明るいコンビニチェーンは1300ルクスもあって……」

「通勤の時に強い光を浴びるといいんですが、混雑した電車の中で真ん中のほうにいると節電時の中央線などでは100ルクスくらいしかないんですね。窓のほうペタッとくっついて外見ていれば7000〜8000ルクスですが……」
「この機会を逸すると、今、屋内の仕事が多くなっていますから、昼間なのにほとんど室内照明くらいしか浴びない人がかなりいます。結局、もともと私達に備わってた睡眠のリズムの調整がうまくいかなくなるんです。寝つきが悪いとか、昼間に眠いとか、睡眠習慣が現代社会に追いつかなくて、睡眠問題を抱えている人がどんどん増えてきた、ということなんですね」


理想は8時間睡眠もウソだった! 2013/1/9

理想の睡眠時間は8時間、とよく聞く。しかし、それには根拠がない、というか、事実に反しているそうだ。
「人が必要とする睡眠は人それぞれなのに、日本では、どこからきたのか、8時間睡眠が良い睡眠のように言われています。でも、8時間というのは、働き盛りの30代から50代の人たちの必要な睡眠時間からすると長すぎなんです。60代70代だと、もう6時間くらいしか必要なくなる。長く寝過ぎるとかえって調子悪くなることもあって、睡眠酩酊と呼ばれます。私の知り合いにも3時間睡眠の人がいますが、人間の睡眠って、例えば何時間眠るにしても、最初の3時間くらいにかなり深い睡眠をだいたいとってしまうんですよ」

「睡眠には2つ、ノンレム睡眠とレム睡眠というのがあって、本質的に異なります。特に先ほど述べた深い睡眠というのは、深いノンレム睡眠のことです。これは大脳皮質を冷却する睡眠で、霊長類などの高等動物で発達しました。一方、レム睡眠はより古くからある睡眠で体の休息、エネルギーの節約が主な目的です。ノンレム睡眠をしている中で、だいたい90分周期でレム睡眠が「侵入(sneak in)」してくるかんじですが、レム睡眠が浅い睡眠というわけではないんですよ。外部から刺激があっても、レム睡眠の状態は、浅いノンレム睡眠よりも覚醒しにくいと分かっています」


若年者と高齢者における睡眠の一般的な状態。横軸が睡眠時間、縦軸がノンレム睡眠の深さを示している。濃い青がレム睡眠、薄い青がノンレム睡眠。高齢者のグレーは目が覚めている時間だ。なお、ノンレム睡眠のステージ1と2が浅い睡眠で、ステージ3と4が「深睡眠」と呼ばれる。深睡眠を2時間以上取るのは10歳頃までで、それ以降はどんどん減る。一方レム睡眠の量は一生を通じてそれほど変わらない。このようなデータからも、レム睡眠は安定的で発生学的に古く、脳機能の成熟や衰えとともに減衰しやすい深睡眠は高等動物になってから発達したことを示していると考えられている

「燃費の悪い動物ほど長く寝なければならないわけですが、我々人間の中でもそれに近いことがあります。たくさんごはんを食べて運動していたアスリートが、現役引退した途端に基礎代謝が落ちて、睡眠も短くなる。引退がストレスになって眠れないと感じる人もいるんですけど、そうじゃなくて体がエコ型に移行して以前のような睡眠が必要なくなるんですね。高齢者が最たるもので、赤ちゃんに比べて体重あたりのエネルギー消費量が5分の1ですから。世界中の多数の睡眠研究をまとめたメタ解析のデータでも、8時間以上眠れるのは中学生くらいまで。70代になったら、正味6時間くらいしか眠れないし、眠る必要もないんです」(注:もちろん個々人に必要な睡眠時間は、平均値を中心に長短それぞれの方向に分布している。そのことは常に意識する必要がある)

睡眠を語るには、体内時計や光の作用で形作られる睡眠のリズムと、必要な睡眠時間を分けて考えなければならない。これにつきる。

なお、過度な短時間睡眠は(実は過度な長時間睡眠も)うつ病のリスクを高めるそうだし、不眠にもつながる。眠り、という、ぼくたちにとって日常的な営みは、ひとたび歯車が狂うと、際限なく泥沼にはまるような側面がある。そういうことが誘発されやすい社会環境に、ぼくたちは住んでいる。

目からウロコの不眠症治療法 2013/1/10

「理想の睡眠は8時間」というのは間違いで、それだけ長い間眠ることができるのは、中学生くらいまでだそうだ。その人がまだ眠りを必要としているかどうかは、脳波の測定で分かり、成人後は7時間台、70歳で6時間くらいというのが平均値だ。

「高齢になってくると、昼のことはさておいて、とにかく今日眠るまでに何分かかるとか、トイレに何回立つとかにこだわりある人が多いんです。でも、夜中に5回6回トイレに行って問題なく昼間生活できれば、まったく構わないんですね。逆に、眠りの時間や夜中のトイレの回数を数え始めて、減点法で考えてしまうといけません。原発性不眠症と言いまして、本当は問題なく眠れているかもしれないのに、何回目がさめたとかトイレに何回立ったとか数えて、そういうことばかり気にするようになる、まさにそのときが不眠症なんです。気にしないで日中、元気にしている人は、何回目が覚めたところで不眠症とはいいません」

 不眠症は「眠れる/眠れない」の問題ではないと聞くとなにか語義矛盾のようで不思議な感じだが、そういうことなのだと納得するかない。
 とすると、昔から言われる「眠れない時は羊を数える」というのはダメな感じがする

「眠れなくても、横になっていれば、体は休まるから、横になっていなさい。そのうち眠くなるから」というやつ。
「それ、よくかかりつけの内科の先生なんかに言われたという人は今もいるんですが、絶対、不眠症ではやってはいけないことです。それをやっているから、みんな不眠症が悪くなっちゃうんです」と三島さんの回答。

異論
「不眠症では」がポイント。「時たま」「たまたま」ならそれで良いと思う。理由は次も関連。

「眠れなければ、絶対ベッドにいては駄目だ、というのが、今の不眠症治療です」と三島さん。
「10分たっても眠れなかったら、ベッドから出るだけではなくて、寝室から必ず出るようにしてもらいます。というのは、不眠症の人って簡単な問題にはまっていて、ベッドに入って眠れないままにずっと我慢してるとか、音楽を流してリラックスしようとしたりとか、眠くなるまで本読んだりとか、テレビをつけてぼんやり見て、自然に眠りに落ちるのを待つとかしますよね。これ、本読むのも、音楽聞くのも、テレビを見るのも、人間にとっては脳波の上では覚醒する作業なんですよ。だけど勘違いしてて、例えばつまらない本を読んでれいば眠くなるとか思っているんですね。でも、不眠症の人は活字が目に入ってくるだけで覚醒するし、読んでいても眠気が来ないと認識しただけでもっと覚醒してしまうんです」

 この手の不眠症というのは、自らを誤った観念にはめ込むことでどんどん悪化するようだ。不眠の原因は他にもありうるから、必ずこれという訳ではないのだが、自分で自分を追い込んでしまったがゆえの不眠というのは切ない。これまでの疫学調査の結果では、不眠症の診断を受けている人の約2割が原発性で、別の約2割がうつ病によるものだそうだ(さらに残りが、疼痛や痒み、頻尿などの疾患、薬剤が原因のもの、など)。不眠はうつへの1つの入り口であり、うつで不眠にもなることを考えると、主に不眠を訴えて通院する人は、最初の時点では、単に「誤った観念」にはまってしまったパターンの人が多いかもしれないと想像する。

では、10分たっても眠れなかったら、寝室から出るように、という真意はどこにあるのだろう。
「自分が不眠に困ってない頃は、眠くなったらベッドに行って、横になると知らない間に寝ていたわけですよ。ところが、不眠を気に病んでベッドでいろいろなことをやってわざわざ覚醒する条件づけの作業をいっぱいやっているわけです。・・・寝室でテレビをみたり本を読んだり悶々と悩んだりして覚醒していた(無条件反射)がために、寝室に向かうだけで覚醒してしまう(条件反射)ようになるのが慢性不眠の条件付けです。だから、今私たちがやってるのは、不眠の認知行動療法として世界的に行われているものと同じで、眠れなければ絶対ベッドから出るようにするんです」

異論
要するに不眠に対する脅迫観念にとらわれるのが不眠症と。脅迫観念がポイント
「横になって、ゆっくり深い呼吸をしているだけでも疲れはとれる、というのは眠れなければ寝なくたっていいさ、と気楽に考えることがポイント。ゆっくり深い呼吸が脅迫観念を抑える。

「例えば、4時間プラス1時間で、5時間くらいしかベッドに寝かせないんです。例えば朝6時に起きたかったら、1時まで絶対ベッドに入れない。そういう人って、9時とか10時くらいからベッドに入って悶々と待ってる人が多い。ても、辛い辛いと言われても1時過ぎまで寝かせない。それで、1週間も続けると、元々もっと眠っているので、バタンキューと眠れるようになります。それで、ベッドにいる時間の90%以上眠れたと自分で評価できたら、30分早く寝てもいいようにする、というふうにやると、2週間くらいで、眠れる、眠れないとか考えなくなっています。(これは正論)

原発性の不眠は不眠恐怖症であって、何かストレスをきっかけに眠れなくなったとかっていう人は、途中から悪い睡眠習慣のために悪循環に入ってしまった人が多いんですよね。原発性ではなくて痒みなどが原因で不眠になっている場合も、それが続くといつの間にか条件付けができてしまい、痒み対策をしても不眠だけが残ることもあるので、不眠とその原因の対策は早めに行う方がよいと言えます」

単純化したモデルでいうと、人間には「眠る力」と「目覚める力」があって、それぞれ生得的な、つまり自然な「力」であるという。不眠症は、眠る力が落ちているのではなく、目覚める力が強くなっている状態だというのが、適切な理解だそうだ。


朝型や夜型だけではない。非同調型も見つかった 2013/1/11

この非同調型の「概日リズム睡眠障害」に悩む人たちは、体内時計の周期が異常に長くなっているということだ。非同調型6名、夜型8名、標準型9名を被験者にして、「箱」の隔離実験室で2週間生活してもらい測定したところ、標準型では体内時計の周期が平均24時間7分だったのに対し、非同調型では24時間29分だったという。

 24時間より29分長いだけなんて大したことないと思った人は(ぼくも最初そう思った)、それを単純に1週間分ということで、7倍してみよう。203分つまり、3時間20分超だ。ある日夜の12時に眠たくなっていた人が、1週間後には午前3時20分すぎにならないと眠たくならない。更に1週間後には午前6時40分過ぎが本人にとって「自然」な就寝時間だ。これはほうっておいては大変なことになる。一方、標準型の人は、1週間でも49分、2週間でも1時間28分しかずれない。これなら日々の生活の変動の中で吸収できる範囲だろう。1日の差はわずかでも、蓄積するとまったく違う話になる。なお、夜型の人たちの中にも極端に周期が長い人がいて、隔離実験をする中で容易に「非同調型」移行するという結果も出ており、強い夜型生活者は「概日リズム睡眠障害」のリスク群なのだった。

 三島さんはこれらを、隔離実験に協力した被験者の脳波、体温、ホルモン分泌などの変化から、体内時計の周期を割り出した。 と同時に、新しい方法での周期の特定の仕方にも成功したという。

「被験者の方々から、皮膚や毛根の細胞をもらって5日間くらい培養しまして、遺伝子が転写される周期を観察するんです。時計遺伝子、クロックジーンと呼ばれる一群の遺伝子があって、それらが転写されるサイクルが絡み合うように1周するのを蛍光で見る特殊な方法があります。すると、採血してホルモンで測っていた周期と見事に一致するんですよね」


皮膚や毛根などの細胞を培養して時計遺伝子の転写周期を生物発光を使って計測すると、遺伝子の転写とホルモンの周期が見事に一致した。左下のグラフの横軸は経過日数で、縦軸は1分あたりの発光回数。


ぐっすり眠るための12の指針 2013/1/15

既知

“働くママ”の子の約半数が22時以降に寝るという事実 2013/3/22


総務省統計局労働力人口統計室が2006年にまとめたこの調査によると、日本の有職者の睡眠時間が世界的にみて短いことに加えて、日本の有職女性が有職男性よりも睡眠時間が20分近く短い。日本での調査結果は10カ国中最低だ。一番よく「寝ている」フランスの有職者女性の8時間38分に対して、一番「寝ていない」日本の女性は7時間33分と1時間以上短い。日本以外のすべての国で、女性の方が男性よりも睡眠時間が長い。言い換えれば、女性の方が睡眠時間が短いのは、日本だけなのである。


寝不足の子どもは多動や学習障害状態になる 2013/3/25

「睡眠不足による精神症状の出方は、年代ごとにちょっと違うだけでずっと大人まで続くんです」と。
「小学生は、自分の眠気をうまく表現できないんで、むしろ情緒的な反応を示す、もしくは行動面で示す。落ちつきがなくなったり、多動状態になってくる。中高生になると、今度は、キレやすいといった問題ですね。」

「これは、実は誰でもそうなんだと思います。自分自身について言っても、寝不足のときは、ちょっと不愉快なことがあると、強く反応して声を荒らげてしまったり。普段は、感情面で爆発しないで済ませられていても、子どものようなプリミティブな反応を示す大人もいます。でも、相対的に言えば、子どもは感情爆発、専門的には情動失禁といいますが、喜怒哀楽のコントロールがうまくいかないのと、学習面での問題。大人になってくると、感情面のほうが抑制がきいて、パフォーマンスの低下が問題になってきます」

「例えば、どんなに夜型の生活になって昼夜逆転しても、それはそれで体は対応できるんですね。でも、ほとんどの人は、朝、起きる時間に縛られてるから、結局、夜型になればなるほど寝不足になるわけです。今は子どももそれに巻き込まれてしまってるんですね。とりわけ就学前児童だと9時間以上、睡眠をとらなければならない。お母さんが朝早く出勤しなければならなくて、例えば7時に子どもに食事をさせるなら、夜の10時頃には就寝してなければ、基本的には寝不足になりますよね」


「勉強と睡眠」の新常識 2013/3/26

「確実に言えるのは、試験前に完全に徹夜というのはまずいってことですね。これは、いろんな実験で明らかにされてまして、単に眠気の問題ではなく、計算の正確さが落ちたりします」

 眠らないで試験に臨むのはいくらなんでもダメ、である。当たり前と言えば、当たり前なのだが、睡眠学的な裏付けもあるということなので、ますますダメだ。

「あと、睡眠時間を削ってたくさん勉強するのがいいのかいうと、ちょっと難しい話です。長く寝ていれば当然勉強時間は短くなります。かといって長時間勉強しても、それがどれだけ頭の中でコンソリデートされていく(定着する)かというのは、睡眠がかかわることですし。徐波睡眠(深い睡眠)もレム睡眠もそれぞれ、記憶したものを海馬に刷り込むのに役立ってるので、きちんと長期的記憶を保持しようと思ったら、覚えた直後に睡眠をとらなきゃいけないと、実験的にも示されています。でも、何時間まで睡眠を削っても学習に影響ないかって……そういうことを厳密にやった研究は見たことないですね」

「中学3年生の受験生が、過眠症じゃないかとお母さんと一緒に相談しに来たことがありました。毎日、7〜8時間は寝ているのに、眠気が強くてテストがうまくいかないと。実際、脳波を調べたら、横になると数10秒で寝てしまうんですね。でも、塾から帰るのが夜中の11時くらいだというのを聞いて、おやっと思い、モニター用の腕時計をつけてもらいました。すると、実は1日3時間くらいしか寝てなかったんです。明らかに睡眠不足なのに、真顔で過眠症の相談に来ていたんですね。おそらくそのくらい頑張って当たり前だと思っていたのでしょうが、睡眠不足という概念がないのかと驚かされました」

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「夜更かし」=「夜型」はウソだった! 2013/3/27

「たしかに、夜型生活は夜型生活なんですが……例えば普段、夜11時頃に寝て、朝7時頃に起きるのがとても自然で余り苦もなく生活している人がいたとします。その人が、深夜の仕事をする必要があって、明け方に寝て昼過ぎに起きる生活に入らざるを得なくなると、2〜3週間ぐらいで体内時計がその時間帯に再調整されていくんですね。そういう人は、また昼間中心の生活に戻せと言われたら、すんなり戻ることができます。一方、真の夜型というのは、必要が生じても、一般的な生活のスケジュールに睡眠習慣を矯正できない人たちですね」

 三島さんが、このように夜型が「真」であるかどうかを区別しようとするのは、「真の夜型」はやはり社会で苦労することが多いからだ。朝起きなければならないのに起きられない。また、完全に日周のリズムから離脱して、睡眠時間帯が、昼夜が24時間で1周する自然な1日のリズムとも、社会生活のリズムとも完全に乖離してしまう「非同調型」にもなりかねない。だから、単に夜型・朝型、というだけではなく、その背景にある本当のところを知ることが大切になる。

朝型夜型質問紙 あなたの朝型夜型傾向を判定します。

ピッツバーグ睡眠質問票 あなたの睡眠に問題がないかを判定します。

「こちらの方は・・・なにか睡眠に問題を抱えているかどうかスクリーニングするものです。特定の睡眠障害を見つけるというわけではないんですが、スコアが6点以上だとリスクが高いと言われています。睡眠について『困っている度』を評価しているんですね。ですから、質問紙で夜型と判定された人でも、出勤時間に縛られなかったり、生活に困っていなければ、昼夜逆転生活でも、引っかかってこないんですよ」

体内時計と睡眠習慣の関係がついに明らかに! 2013/03/28

人間の体内時計の周期が25時間ではなく、平均24時間10分でありだいたい正規分布しているという。

「専門家ですら、まだ25時間だと思っている人もいるんです・・・でも、それは古い測定なんですね。昔は、洞窟に人を入れて実験していたんです。人間の睡眠周期は環境よりも社会的なニーズに大きく左右されると思われていたので、洞窟に隔離すればいいだろう、と。照明などの影響はあまりないと考えられていて、普通に照明が使われていました。いわば夜に人工照明の光にあたってリズムがずれる効果なども含めて、周期が25時間くらいに見えていた、ということなんです」

現在の知見では、人間の睡眠は社会的なニーズよりも、光などの自然環境に影響を受けやすい(もちろん人工照明も含む)。その光の影響をうまく取り除く仕掛けをした実験を行うようになって、はじめて遺伝的・生得的に持っている体内時計の周期がわかってきた。

「洞窟での実験が始まった1960年代は、人間の体内時計は周囲の影響を非常に受けにくいと思われていたんです。その頃でもネズミなんかは薄暗がりの5ルクスとか10ルクスとかでも体内時計が動くと分かっていたので、常識で考えれば人間も影響を受けると思うんですが……。そして実際に、その後、だんだん人間の体内時計も光に影響されると分かってきました。まず、数千から1万ルクスのとても強い光で変化することが分かって、強目の家庭照明の1000ルクスでもしっかり当てれば動くと。それまでは、人間にとって大事なのは、社会的な同調、明日何時に起きようとセットした目覚まし時計ですとか、会社の出社時間ですとか、大脳皮質が絡むような刺激が最も大事で、光とか食事とかはあんまり影響ないって思われてたんです」

人間の体内時計が、社会的な同調よりも、むしろ、光のような自然環境に強く影響されることがはっきりしてきた

体内時計の周期の比較。赤が日本の「非同調型(24時間のリズムに同調できないタイプで、真の夜型とも異なる)」で、青は日本のそれ以外、グレーは米国のデータ。体内時計の周期が25時間の人はまだ見つかっていない。

厳密な測定をした人の中で)きわめて体内時計の周期が長い場合、たとえば、24時間30分くらいの人の様子を素描してもらった。

「こういう人はですね、眠くなる時間が毎日毎日遅れていくのを微調整するのが大変で、要するに早寝早起きのほうにずらすことがほとんどできない。何とかその位置を保つのが精いっぱい。物心ついた頃から全然朝起きれない、宵っぱり、寝坊の子ども時代を送って、あとは遅刻の常習魔になるパターンですね──」

 24時間10分を平均としてほぼ正規分布、といっても、それほど裾野が広いわけではない。そして、少しでも、体内時計の周期が長いと、三島さんが言う「真の夜型」になりやすくなる。

 24時間30分という体内時計は、平均よりもわずか19分遅いだけだが、たったそれだけで現代社会では適応に苦労する。単に夜型というのを越えて、自分の生活のリズムが1日の周期と完全にかけ離れてしまう「非同調型」にもなりかねないという。ましてや、25時間周期だと……大変なことになりそうなのは間違いないのである。


睡眠リズム異常の原因を解明- 新たな診断法の開発に期待 -

平成24年8月14日
(独)国立精神・神経医療研究センター・三島和夫部長らの研究グループが、睡眠リズム異常の原因を解明- 新たな診断法の開発に期待 -

■ 本成果のポイント

  • 1. 概日リズム睡眠障害(非同調型)では体内時計周期(一日の長さ)が異常に長くなっていることを世界で初めて明らかにしました。
  • 2. 強い夜型生活者でも体内時計周期の異常が見られました。24時間社会で生活リズムが破綻しやすいハイリスク群であることが明らかになりました。
  • 3. 概日リズム睡眠障害の新たな診断法の開発に応用が期待されます。

■研究の背景
  近年、睡眠・覚醒リズムの異常を訴える患者さんが増加しています。自分が望む時刻に寝つき、朝に起床することが困難であるため、学校や会社でも遅刻を繰り返し、欠席や休職などで引きこもりがちな生活になると、さらに睡眠リズムが不規則になる悪循環に陥ります。不眠症とは異なり自分の寝やすい時間帯では良眠できます(むしろ長時間睡眠)。このように睡眠時間帯を社会生活に合わせることができなくなるタイプの睡眠障害は概日リズム睡眠障害(睡眠・覚醒リズム障害)と呼ばれます。
 代表的な概日リズム睡眠障害として、1)明け方にようやく寝ついて昼頃に目を覚ます睡眠相後退型(極端な夜型、昼夜逆転型)、2)睡眠時間帯が毎日遅れてゆく非同調型があります。ともに慢性疾患であり、意志の力や家族の声かけなどでは治らず、患者さんの社会生活に深刻な影響を及ぼします。
 非同調型の病因は不明でしたが、体内時計の何らかの調節異常の関与が疑われていました。なぜなら、体内時計の調節に重要な環境光を感受できない全盲の方の約半数が概日リズム睡眠障害に罹患していること、視覚障害のない人でも時刻情報のない隔離環境下(洞窟内など)では同様の睡眠状態に陥るからです。しかし、視覚障害がなく通常生活環境下でも非同調型リズムに陥る原因については不明でした。

■研究の内容
 本研究では、長期罹病している非同調型の患者さん6名、夜型生活者8名、標準型生活者9名に、強制脱同調試験に参加していただきました。強制脱同調試験とは、昼夜や時刻が全く分からない隔離実験室内で14日間にわたり特殊な睡眠スケジュールで生活していただき、その間に生じるホルモン分泌・体温リズム位相の変化を連続して測定することで体内時計の周期をきわめて精密に測定する方法です。
 本研究の結果、標準型生活者の体内時計周期は平均24.12時間(24時間7分)であったの対して、非同調型では平均24.48時間(24時間29分)と異常に延長していました。ちなみに、人の体内時計の周期は25時間と書かれていることがありますがこれは古い方法で測定された値で正しくありません。強制脱同調試験で精密測定した標準生活者の体内時計周期は平均24時間10分前後、23.9〜24.3時間の範囲にあり24時間にとても近いことが明らかになりました。これは米国人のデータとほとんど同じです。それに比べて本研究で確認された非同調型の周期は極端に長いことが分かります。標準型生活者との周期の差(22分)は睡眠習慣に非常に大きな影響をもたらすことがシミュレーション研究からも明らかになっています。今回の研究に参加された患者さんでは、周期が長いほど睡眠リズムを調節する治療(時間療法)の効果が得られにくかったことも、非同調型の発症と治療経過に体内時計の周期の長さが重要な役割を果たしていることを示唆しています。
 本研究では、一部の夜型生活者でも非同調型に匹敵する長周期が認められました。実際、それらの被験者は昼夜逆転に近い生活に陥っていました。夜型生活者の中には失業などで社会生活の縛り(目覚ましなど)がなくなったり、体内時計調節に重要な日照が弱くなる冬季などに非同調型を発症するケースが知られていました。また概日リズム睡眠障害の患者さんの多くでは幼少時から夜型傾向が見られます(環境ではなく体質が強く関連)。本研究により夜型と非同調型との間にも睡眠リズムが崩れやすくなる共通の生物学的基盤が存在することが明らかになりました。

■今後の展開
 24時間社会の中で睡眠リズムが不規則になっている人々が増えています。夜勤従事者も就労者の20%以上に達しています。このような生活環境下では、体内時計周期が長い人は睡眠リズム異常の大きなリスクを抱えています。日照を活用し、規則正しい就床、運動、食習慣を心がけるなどの対策が必要です。
 今後、本成果をもとに、非同調型をはじめとする概日リズム睡眠障害の診断やハイリスク者の同定、治療予後の判定に応用されることが期待されています。現在、患者さんからいただいた皮膚細胞を培養して体内時計の調節に関わる遺伝子(時計遺伝子)の機能を解析することで、周期をより簡便に測定する技法の開発に取り組んでいます。

■論文名
原著名:Intrinsic Circadian Period of Sighted Patients with Circadian Rhythm Sleep Disorder, Free-Running Type
和訳:視覚障害の無い概日リズム睡眠障害(非同調型)の内因性の生物時計周期

睡眠不足で不安・抑うつが強まる神経基盤を解明 

2013年2月14日
独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター
国立精神・神経医療研究センター・三島和夫部長らの研究グループが、睡眠不足で不安・抑うつが強まる神経基盤を解明


■ 本成果のポイント

  • ウィークデイに相当するわずか5日間の睡眠不足により、ネガティブな情動刺激(他人の恐怖表情)に対する左扁桃体*1の活動が亢進することが分かりました。一方、ポジティブな情動刺激(幸せ表情)に対する扁桃体の活動性は変化しませんでした。
  • ネガティブな刺激に対する扁桃体の過剰反応は、左扁桃体-腹側前帯状皮質*2間の機能的結合が減弱していることに由来していました。
  • 睡眠不足が強いほど左扁桃体-腹側前帯状皮質間の機能的結合はより減弱し、機能的結合が弱くなるほど不安・抑うつ傾向がより強まることが分かりました。

*1:扁桃体は情動と記憶を司る神経核です。*2:前帯状皮質は扁桃体の活動を抑える役割をします。

■研究の背景

 現代人の多くは、24時間型社会、夜型のライフスタイルの増加、長時間労働の常態化などにより、慢性的な睡眠不足に陥っています。総務省の社会生活基本調査やNHKの国民生活時間調査でも、1960年では8時間超であった日本人の平均睡眠時間が、近年では7時間半程度と1時間近く短縮しています。特に日本の有職女性の睡眠時間の短さは国際的にも群を抜いています。
 人間の必要睡眠時間がこのような短期間で変化するはずもなく、睡眠不足のため現代人の約10%が慢性的な眠気を自覚しています。通勤電車内で眠り込んでいるサラリーマンの姿はもはや見慣れた現代の一風景です。これまで、睡眠不足が精神運動機能の低下を引き起こし、事故やヒューマンエラーの原因となることが多くの研究で示されてきました。

 さらに近年の研究から、睡眠が不十分だと不安障害や気分障害(うつ病)のリスクが高まるのではないかと指摘されています。これまでは主に、不眠症とうつ病の関係や、一晩の全断眠(徹夜)後の気分に関する研究が行われてきました。例えば、徹夜後には通常睡眠後と比較して、刺激を受けた際に瞳孔散大や血圧・心拍数の上昇などの交感神経緊張が強くみられ、弱い心理的ストレスに対しても気分の悪化を起こしやすく、不安や混乱などの情動不安定が強まることが報告されています。一方で、一般生活では、一晩の徹夜よりも日々蓄積した睡眠不足によって心身の不調が生じることが多いのが実情です。しかし、睡眠不足時の情動反応を検討した研究はごく限られており、その神経基盤は不明でした。
 そこで本研究では、実生活で体験し得るレベルの睡眠不足(5日間の短時間睡眠)の状態をシミュレーションし、睡眠不足が睡眠構造、不安や抑うつの強さ、さまざまな感情を呈する表情写真を見た際の脳活動(機能的MRIで測定)に及ぼす影響とそのメカニズムを検討しました。

■研究の内容

 健康な成人男性14名(平均年齢24.1±3.3歳)が、充足睡眠セッションおよび睡眠不足セッション(各5日間)に参加しました。充足睡眠セッションでは床上時間を8時間(11P.M.-2A.M.就寝、7A.M.-10A.M.起床)に設定し、睡眠不足セッションでは床上時間を4時間(3A.M.-6A.M.就寝、7A.M.-10A.M.起床)に制限しました。セッションの順番は被験者ごとにランダムに割り付け、相互に2週間のインターバルを設けました。その結果、充足睡眠セッションでの睡眠時間は平均8時間5分±21分、睡眠不足セッションでの睡眠時間は平均4時間36分±32分でした(離床できず寝過ごした被験者がおり、平均で4時間を超えています)。したがって、被験者は一日あたり3時間29分±32分、計5日間の睡眠不足に陥った計算になります。

 各セッションの第4夜および第5夜に睡眠ポリグラフ試験を行い、睡眠の特徴を調べました。その結果、睡眠不足セッションにおける総睡眠時間、浅い睡眠時間(Stage1、Stage2)、レム睡眠時間は、充足睡眠時に比較して有意に短縮していましたが、深い睡眠(Stage3、4)は保たれていました。また、徐波パワー(深い睡眠をもたらす周波数の遅い脳波)も増大していました。
 各セッションの第5日目に、感情を伴う表情画像を見た時の脳活動の変化を機能的MRIで測定しました。その結果、充足睡眠時に比較して睡眠不足時には恐怖表情を見た際の左扁桃体の活動量が有意に増大していました。扁桃体は情動と記憶の制御を司る重要な神経核です。右扁桃体の活動も増大する傾向がありましたが、左右差の意義については現時点では不明です。一方で、寝不足時でも幸福表情に対する扁桃体の反応増強は見られませんでした。すなわち、残念なことに、睡眠不足時にはネガティブな情動刺激に対してだけ反応しやすくなることを意味しています。
 睡眠不足時にネガティブな情動刺激に対して扁桃体が過剰反応するメカニズムも明らかになりました。通常、腹側前帯状皮質を含む内側前頭前野は扁桃体と機能的、解剖学的に強く接続しており、扁桃体の過剰な活動を抑止することで情動制御に寄与していることが分かっています。以前の研究では、社会不安障害、うつ病、統合失調症の患者では、扁桃体と腹側前帯状皮質や内側前頭前野との機能的結合が減弱していることが報告されています。今回の研究から、平日に相当するわずか5日間の睡眠不足によって、健康成人でも扁桃体と腹側前帯状皮質間の機能的接続性が減弱してしまうことが明らかになりました。
 実際、fMRI検査を受ける直前に行った心理検査によって、睡眠不足の度合いが強いほど(深い睡眠が多い、徐波パワーが大きいほど)機能的結合が減弱し、機能的結合が減弱するほど左扁桃体の活動が亢進し、左扁桃体の活動が亢進するほど不安と混乱が高じ、抑うつが強まる傾向が確認されました

■今後の展開

 本研究の知見は短期間の睡眠不足でも、情動的な不安定や抑うつのリスクが増大することを示唆しています。現代人にみられる抑うつ傾向や“キレやすさ”の一部は睡眠不足が関与しているのかも知れません。また、より長期間にわたり睡眠不足を続けることでうつ病や不安障害の発症につながる危険性すら危惧されます。
 「寝る間を惜しんで」「不眠不休で」「4当5落」・・・、睡眠を犠牲にして勤勉であることが日本人の美徳であると考えられてきました。このようなライフスタイルが真に効率的で持続可能なのか考え直すべき時期にきていると思います。私どもは、睡眠不足や不規則な睡眠習慣が心身に及ぼす影響について研究を進めています。必要とする睡眠時間には大きな個人差があります。個々の必要睡眠時間、睡眠不足度を知るための診断技術、睡眠不足からの回復スキルの開発にも取り組んでいます。

■論文名

 原著名:Sleep debt elicits negative emotional reaction through diminished amygdala-anterior cingulate functional connectivity

和訳:睡眠負債は扁桃体-前帯状皮質間の機能的結合の減弱を介して,ネガティブな情動反応を惹起する